「ハーフ&ハーフ」で創られた、「上田麗奈」を2000%感じるアルバム。
上田麗奈 – “Empathy” 感想。

2020年3月27日

Empathy

Tracklist
01. アイオライト
02. あまい夢
03. Falling
04. ティーカップ
05. いつか、また。
06. きみどり
07. Another
08. aquarium
09. 旋律の糸
10. Campanula
11. Walk on your side

僕は、上田麗奈さんの “表現” が大好きです。

声優としてはキャラクターを深く理解して、そのキャラの感情をとにかくリアルに生々しく表現する深さのあるお芝居。
そして個人活動では麗奈さんの中にある宇宙の深淵さが垣間見える表現を見せてくれて、
音楽や写真の表現に触れるたびに「麗奈さんにしか視えていない “世界” があるんだろうな」と思っています。

くちなしのトークショーのときにすごく印象的だった言葉があるんですが、
MC「初めて写真集を制作するにあたってどうでしたか?」
麗奈さん「RefRainを作った経験が大きくて。ミニアルバムと写真集って別物に見えるかもしれないけど、 “自分を表現する” という意味では同じなので、RefRainを作った経験が活きました。」

普通の人間は外枠(表面)を見てしまいがちだけど、麗奈さんはその裏側にある “本質” みたいなものを見据えていると、この言葉から感じました。
麗奈さんが見ている世界の一端に触れてみたい、そう強く思わせてくれる人です。

そんな上田麗奈さんの1stフルアルバム【Empathy】がついにリリースされました。
オリジナルの音楽作品としてはRefRain以来3年3ヶ月ぶりとなる本作、凄まじいアルバムです。
RefRainが「“上田麗奈”の中に潜っていく」作品とすれば、
Empathyは「麗奈さんが得てきた感情を、 “上田麗奈” の生の表現で感じる」作品。
麗奈さん自身と、作家やスタッフの方の意見を「ハーフ&ハーフ」で融合させて制作されたということですが、
その結果がこの上なく「上田麗奈」を感じるアルバムになっているのが本当に面白い。
おそらく参加した作家さんやスタッフの皆さんが麗奈さんのやりたいことやビジョンに強く共感したからだと思います。
ポップな曲も増えて、音楽的に幅を広げつつ、でも「どこか陰のある部分」や「ネガティブを出発点としてポジティブであろうとする」ところはまさに麗奈さんの “らしさ” 。
どの曲にも「上田麗奈らしさ」が満ち溢れています。

また、「声の表現」に徹底的にこだわっているのも麗奈さんの声優・役者としての誇りを感じる。
ヴォーカルエフェクトや修正を極力抑えて、上田麗奈さんの生の感情表現を主軸に据えた作品づくりはちょっと他には見られないアプローチです。
(これレコーディングすっっっっっっっごく大変だったんじゃないかなぁ…)
まるでお芝居を聴いているかのような、生々しくてダイナミックな感情変化を歌に乗せているのが本当に凄い。
これは声優でなければ、というか麗奈さんでなければできない表現。
「声優が歌う意味」のひとつの答えを示していると思う。

その一方で、麗奈さんの感情表現を支える楽曲たちもすごく “濃い” 。
一聴した印象ではポップな楽曲や柔らかい雰囲気の楽曲でも、曲構成やリズムワーク、音色の使い方にどこか「普通じゃない」要素があって、
麗奈さんが持っている芸術性に呼応しているかのよう。
曲順もメチャクチャ練られていて、「麗奈さんが得てきた感情を時系列で辿っている」ような感覚にもなるし、
「麗奈さんが大事にしている感情に徐々に近づいていく」ようにも感じられる。
最初から最後まで通して、流れを感じながら聴きたいアルバムです。

そんな「上田麗奈」を感じる楽曲たちを1曲ずつ見ていきましょう…

01. アイオライト

YouTube MV

「色づけ、世界。」
RefRainの白色の世界から一歩踏み出した先は、光が差し込む新緑の世界。
LUCKY TAPES高橋海さんによる軽やかなシティポップで、曲調は明るいけど
歌っている感情にネガティブなものがにじみ出ているのがとても上田麗奈さん。
Bメロの語りかけるように歌うパートが印象的で、「ああもうなにやってるんだろ」に込められた自嘲のニュアンスがとても好き。
1番と2番で「ああ」に込めた感情が異なるのがすごく良い…

新しい音楽的な挑戦と、「あぁ、上田麗奈さんの楽曲だ…」という安心感の両方を備えた、ある意味でEmpathyを象徴する1曲。

02. あまい夢

YouTube MV

ORESAMAのエレクトロポップと、麗奈さんの柔らかい高音がすごく心地よい。
ORESAMAの作風と麗奈さんの声は絶対に合うと思っていたけど、耳馴染みが良すぎて無限に聴ける。
麗奈さんの柔らかいところが出てる曲だけど、その中にも「大切な人たちが楽しそうに見てるのをずっと見ていたい、でも自分はその中にいなくていい」的な陰を感じさせるのがよい。
「曖昧に 視線をそらしては こぼさないように心の奥に包むよ」の 「手が届かない世界を眺めてる」感覚がとても好き。
あとベースラインが動きまくっててめっちゃカッコいいです。

03. Falling

あまい夢から覚めて、ティーカップへ堕ちていくインスト。
“あまい夢” のフレーズの断片と “ティーカップ” のコーラスがクロスフェードしているのが繋ぎのトラックとして完璧。
“あまい夢” の断片の入れ方と加工の仕方がすごく好きです。

04. ティーカップ

カフェで流れてそうなゆったりお洒落ポップ、と見せかけて「普通じゃない」要素満載の曲。
心地よい「tu tu tu…」のコーラスがいきなりピッチ変わって不安感を催すものになったり
曲が後半になるにつれてリズムやベースラインが揺れていくとか、音楽的な遊びとチャレンジの嵐。
気持ち悪さの表現方法にプログレ的なところがあるのもよきよき。不条理な繰り返し。
歌詞もとらえどころがなくて、奇妙な浮遊感が癖になる。

05. いつか、また。

上田麗奈さんの表現がヤバい曲その1。
静かに語りかけるところ、不安を滲ませるところ、内に秘めていた感情を爆発させるところ。
まさに「歌わない歌」「お芝居としての歌」の極致で、歌に込められた感情の生々しさに圧倒される…
「私 ダメで、ずるくて、傷つけるのにどうして」の「私」のところの声の震えがあまりに生々しくて泣きそうになる。
曲構成も典型的なAメロ~Bメロ~サビではなく、感情の変化を表現するのに最適な曲構成を選択してる感じなのがとてもよい。
無音やブレイクを場面展開にうまく使っている。
「「君は独りじゃない」ってベタすぎる台詞…」のところのコード感が、歌われている不安感やネガティブな感情を表現しててメチャクチャ好きです。

上田麗奈さんにしか歌えない歌であり、「声優・上田麗奈」の感情表現のリアルさ・生々しさをこれでもかと感じられる曲。
この歌をライヴでどう表現するのか、今から楽しみでもあり怖くもある。

06. きみどり

「怖いけど、一歩踏み出した先は優しい世界だった。」
新緑の日差しを思わせる、麗奈さんの優しくて柔らかい歌に包まれるスローポップ。
“アイオライト” のその先の風景とも感じられる。
三拍子リズム+春の日差しのように柔らかい麗奈さんの歌がとても心地よくて優しい気持ちになれる。

07. Another

Empathyの真骨頂はここからです。
ティザーで最初に出たインスト曲ですが、この柔らかい雰囲気から “aquarium”と “旋律の糸” に繋がるとは誰が予想したでしょうか。
詳しくは “旋律の糸” のところにて。

08. aquarium

上田麗奈さんの表現がヤバい曲その2
作詞:唐沢美帆さん、作編曲:高橋諒さんでたいへん楽しみにしていた曲ですが、なんですかあまりにも強烈すぎませんかコレ…
麗奈さんと唐沢美帆さん、高橋諒さんの「どこまでアーティスティックになれるか」のガチバトル。
最初の1音で意識を水の中に持ってかれて、麗奈さんの歌が入ってきたらもう深海の水底に囚われる。
綺麗だけど、すごく息苦しい。聴いていて胸が詰まる苦しさ。
Aメロ→Bメロ→サビと水底の景色が変わっていって、サビで暗い水底から光を見つけて、遠い光を目指して藻掻いていく。
そしてCメロで新しい世界に向かってただひたすらに上昇していく。
ラストで4つ打ちビートになるところで、上昇のスピードが上がるのを音楽で表現しているのがたまらなく好きです。

なによりも麗奈さんの歌の表現がマジ凄い…美しさと、内に秘めた意志の強さに触れて打ちのめされる。
波をたゆたう浮遊感と透明感、そしてその中にある揺るがない力強さ。
特に「導かれてく Ah」のところのピッチの揺れは表現として成立してるのが凄いし、
水面に向かって藻掻いている感覚を完璧に表現している…ここは鳥肌が立った。

上田麗奈さんの「静かな強さ」を感じて、麗奈さんが得てきたもの、日々戦っているものの重さを感じる曲。大好きです。

09. 旋律の糸

世界に絶望した歌。
ピアノの音だけで構成され、静謐だからこそ世界との断絶を感じる。
“aquarium” とはまさに対照的な、すべての感情を失った「からっぽ」の色を帯びた麗奈さんの歌い方が突き刺さる。
ボディの打音や逆再生音など、ピアノでは普通鳴らない音を使っていることで、この曲の「静かな狂気」が色濃くなっていてとても良い。
ラストのコーラスがどんどん近づいてきて、最後には麗奈さんの声だけになるのが「世界と切り離された」感覚になってすごく重い感情を得る。
ラストで麗奈さんの声がどんどん近づいてくるのがとても好き。

歌詞に御冷ミァハみを強く感じるのも刺さってしまう要因かもしれない。

“Another” をティザーで聴いたときに想像していた楽曲と「表現されている感情」としては真逆で、
このタネ明かしの仕方がアーティスティックの極みで大好きです。

10. Campanula

少しの後悔と、たくさんの感謝と、優しさと。
ピアノとストリングスで綴られる楽曲に乗せて紡がれる麗奈さんの優しい歌。
新緑の森の中心で、空に向けて歌っている姿が目に浮かぶ。
単体で聴いても十分に刺さるけど、 “aquarium” で藻掻いて、 “旋律の糸” で心を折り砕かれているからこそ
ここで「ごめんねじゃなくて、ありがとう」に辿り着くのがあまりにも尊い………
麗奈さんの優しさに満ちた歌が心に染み渡る。
“Another” からここまでの曲順、本当に絶妙。

11. Walk on your side

聴き手に寄り添う、どこまでも優しい歌。
麗奈さんの「理想の姿」の尊さと、世界を包み込むレベルの優しい声色に言葉を失ってしまう…
秀和さんの曲だからか、RefRainとの繋がりというか、「RefRainのその先の景色」な感覚もある。
「優しい声が応える それがほんとに嬉しくて」の “嬉しくて” に込められた声色とニュアンスが慈愛に満ちていてメチャクチャ好きです。

RefRainの時は “自分の表現” にフォーカスしていた麗奈さんが誰かに寄り添う歌を歌っている、その事実だけで無限に尊いんですよね………
この3年半で麗奈さんが得てきたものの大きさを実感してしまう曲。

まとめ的なアレ

リードトラックの2曲はポップだし一見すると柔らかい印象だけど、同時にすごく「重い」アルバムでもある。
特に麗奈さんを追いかけていればいるほど、歌詞や表現に込められた重さを認識できる作品だと思います。
ぜひ “アイオライト” と “あまい夢” から軽率に入って “いつか、また。” と “aquarium” の表現の凄みに打ちのめされてほしい。

上田麗奈さんが得てきた感情と、それを表現する「声優・上田麗奈」の凄みを体感して、改めて僕は麗奈さんの表現が大好きだ!と再認識しました。
このアルバムを創ってくれて本当にありがとうございます。
そして、音楽を創るのを楽しいと思ってくれたのであれば、いち音楽ファンとしてとても嬉しいです。
また創りたくなったときに音楽での新しい表現を聴かせてくださいね。