魔女の旅々オタクの視点で読み解くリテラチュア/上田麗奈

2020, Dec 28

※魔女の旅々 原作5巻くらいまでのネタバレを含みます ※あくまでも個人の感想です

いやー、魔女の旅々アニメたいへん良かったですね! 原作(ほぼ)3巻までの「イレイナさんの旅路 第1章」を非常に丁寧に描いてくれました。 特に9話「遡る嘆き」では時計郷ロストルフのお話を真正面から描いてくれて、この話が魔女旅で1,2を争うくらい好きな人間としてとても嬉しかったです。 エステルとセレナのしんどい関係性大好き……楠木ともりさんによるセレナの狂気のお芝居が最高だった…………

そして、我らが上田麗奈さんが歌う主題歌「リテラチュア」の評価が非ッッッッ常に高いですね。 アーティスト枠として令和2年アニソン大賞にて特別賞を受賞しましたし、

#声優アーティスト楽曲大賞2020でも挙げている方が非常に多いように思います。

純粋に良い曲なのはもちろん、「魔女の旅々」という作品の主題歌として見てもこの上なく相応しい、まさに「イレイナさんの旅を表現した曲」なのが広く評価されている理由のひとつかと思います。 麗奈さんご本人もインタビューで言及されていますが、キャラソン的なアプローチも取り入れながら、イレイナ役の本渡楓さんとは別の視点から見た「イレイナさん」を表現した歌。 僕は上田麗奈さんのファンであると同時に魔女旅のファンでもありますが、魔女旅の世界とイレイナさんにこれ以上なく寄り添ってくれている曲と感じます。 もう魔女旅の主題歌はこの曲以外に考えられない。 歌の表現、歌詞、音色、リズム/テンポといった、この曲を構成する音楽的要素すべてが「魔女の旅々」という作品とイレイナさんを表現するように組み立てられている。

前置きが長くなりましたが、そんな「リテラチュア」という曲の、僕なりの 「ここに魔女旅を感じる」を各要素ごとに紐解いていきましょう 、がこの記事の趣旨です。 ではいきましょう。

歌詞

曲単体で聴いても成立するけど、魔女旅本編のシーンを思い起こさせるフレーズがたくさん散りばめられていて、魔女旅のオタクはよりニヤニヤできる歌詞になっているのがマジで良い。 RIRIKOさんてんさいこんさい。

「また会いましょう 約束だから」
あなたはそう微笑んだ
「また会いましょう」小指のまじない
誰かの声がして目が覚めた

ここはわかりやすいですね。6話「正直者の国」ラストのイレイナさんとサヤ。 このフレーズを聴いた瞬間、このエピソードはやるだろうな、と予想できたのでいつくるか……と待ち構えていたわけですが、ちょうど折り返し地点で持ってきましたね。 このシーンの「小指のまじない」がマジで尊いわけですよ……!! サヤがイレイナさん大好きなのはわかりやすいですが、イレイナさんも(表には出さないけど)なんだかんだでサヤを特別な存在と思っているのがよきよきのよき。 イレイナ×サヤの尊さを語るにはアニメの範囲内だけでは足りないので、原作10巻の「旅の航路」シリーズを読んでください。

好きだから選ぶ
選びながら私になってゆく

ここは12話「ありとあらゆるありふれた灰の魔女の物語」。 イレイナさんが「自分の別の可能性」に触れることで、「旅は選択の連続。自分の可能性を選び取っていくことで自分を形作っていく」ことに改めて気づく話ですね。 時計郷ロストルフの記憶を超えていくためにも非常に重要なエピソード。 12話のテーマとこのフレーズが完璧にリンクしているのが熱いんですよね。 BパートEDのリテラチュアが流れるところで、このフレーズに差し掛かるところでイレイナさんが再びほうきに乗って旅を再開するのがまじエモい。

この一節、イレイナさんの旅を示しているとともに上田麗奈さん自身の在り方も示しているのが、「イレイナさんの歌」と「アーティスト上田麗奈の歌」を両立していて素晴らしいと思うんですよね。 「好きだからこの仕事を続けてこられた」とよく発言されていますし、僕自身も "好き" を原動力に生きてきた人間なのでめちゃくちゃ共感できるフレーズ。

嬉しいし不安だし 私だって必死だし
主人公になれていますか?

ここも12話。"主人公の私" と言われていたイレイナさんと通ずるものを感じる。 頭の回転が早くてスマートで、何でもそつなくこなしてしまうように見えるイレイナさんですが、 内側では悩んだり不安に思ったり必死に生きている等身大の女の子らしいところもある、というのが端的に表れているフレーズでとても良い。

朝が来た 忘れないでいてね
旅のリテラチュア

ネタバレになるので放送中は黙秘していましたが、このフレーズが原作4巻「忘却紀行のアムネシア」を暗示しているように思えてしょうがなかった。 "朝が来た" と "忘れないでいてね" がアムネシアを連想せずにはいられないのですよね…… このフレーズから「もしかしてアニメでアムネシア来る???」とちょっと思いつつも、11話までの構成を見て「やっぱ来ないか……」となったりもしましたが、 12話ラストで不意打ちで持ってくるのマジでずるい。 最後の最後に推しを出さないでください!!!!!(大歓喜) あんなの見せられたら2期や劇場版期待するしかないじゃないですか!!!?????? イレイナさんとアムネシアのいちゃいちゃ旅デート(嘘は言っていない)とかアムネシアとアヴィリアのお話とか映像で観たすぎるので 2期なにとぞよろしくお願いいたします。 イレイナさん×アムネシアもアムネシア×アヴィリアも尊すぎるので全人類原作4巻を読んで。

作詞・作曲を担当されたRIRIKOさんご本人の解説ブログもあるのでぜひ読んでください。


歌の表現

1番と2番で歌の感情表現を意図的にスイッチしてるのがとても良い。 上田麗奈さんは(ソロ名義で)歌うとき、「生の感情を伝えることを重視する」ために

  • なるべく通し録り
  • ピッチ補正などのお化粧は最小限に留める

スタイルでレコーディングされているそうですが、リテラチュアに関しては1番のみピッチ補正をかけているとのこと。 それにより1番では「スマートな、頭の良いイレイナさん(=イレイナさんの外面)」を表現し、2番では「イレイナさんが内側に抱えている葛藤や悩み(=イレイナさんの内面)」を表現しています。 イレイナさんの外面から内面にフォーカスしていくという流れも熱いし、 ピッチ補正という編集技法を「感情の表現」に利用しているのがすっっっっっっっごい面白いと思うんですよね。 ピッチという音楽要素が人間の感情と強く結びついていることの顕れ。 「…ううん、どちらも」と「主人公になれていますか?」のピッチの揺れ具合と抑揚からイレイナさんの不安とか葛藤をダイレクトに感じられる気がして、とても素敵な表現。

音色(楽器編成)

いわゆる「アニメのOPらしい」キラキラ感を抑えて、シンプルな編成になっていますが、 それが「イレイナさんの内面」へフォーカスするのに一役買っている気がします。 ファンタジー作品だけど、リアリティのあるキャラクター表現にするために、土台となる楽曲も地に足がついた世界を表現する必要があるといいますかね。 あと、情景をめちゃくちゃ想像しやすい音。 Aメロは「街の風景」、Bメロは「街を少し出たところの街道」、そしてサビで「広大な草原」と場面展開しながら明確にイメージできるのがとても高まる。 「現実世界に住んでいる我々が想像しやすい、地に足のついたファンタジー世界」という魔女旅の雰囲気そのものが表現されている気がするんですよね。 同じメロとコード進行にもかかわらず、1番と2番で想起される風景が異なるのもアレンジの妙。 ちょっとした楽器の違い、歌の表現の違いでイメージされるものが変わる、音楽の面白さだなぁと。

ピアノとストリングスの音色が「世界の美しさ」を表しているように思えてとても好きです。

曲構成

曲構成もシンプルなA→B→サビ→A→B→サビ→C→ラスサビですが、曲の進行とともに「時間の流れ」を感じられるのが旅をしている気持ちになれてとても良い。 1番は昼間、2番は夕方、Cメロ&ラスサビ手前で夜→夜明けに変わってまた新しい1日が訪れるという。 僕にとって音楽は世界とストーリーを記述するものなので、こういう曲構成で時間の流れを表現する手法はとても好み。 特にラスサビ手前「旅のリテラチュア」のあたり、アコギ一本になって夜明け~朝の静けさを感じさせる部分がたいへん好き。 もしまだTVサイズでしか聴いてない人がいればぜひフルで聴いていただきたい。

やはりRIRIKOさんは「ポップスの曲構成を逸脱せずにエモい展開を仕込む」のが非常に上手い……

リズム&テンポ

リテラチュアのBPMは118です。


人間の平均歩行速度よりちょっと速いくらいであり、ゆっくりすぎず速すぎない非常に "ちょうどよい" テンポ感。 イレイナさんの「目的を決めず気ままに旅をする」旅のテンポ感とよくマッチしている気がします。 聴いていても「無理のないペースで、少し遠くの景色を見に行く」感覚になれる。そういう意味でも "旅" というコンセプトとピッタリだと思う。

-- 主題歌において、「作品と主人公を表現する」と「キャラソンにならないようにする」のバランスを取るのはすごく難しいテーマだなぁと感じているんですが、 それを非常に絶妙なバランスで成立させた楽曲という印象。 そして、「作品と主人公を表現する」ところに声優としての経験を存分に活かしているという意味で上田麗奈さんならではの曲と感じます。 しかも、自身が演じているわけではないキャラでこれを成立させてしまうのが上田麗奈さんの凄みだと思うんですよね。 "声優が歌うことの意味"をまた見せていただいた気がします。最高です。