2021年のスタートに、改めて「オンラインライブ」を考える。
あけましておめでとうございます。 2020年はいろいろと"変化の年"だったと思いますが、今年は良い方向に向かっていけばいいですね。 さて、昨年の音楽シーンにおける大きな"変化"のひとつであろう、「オンラインライブ」について書いてみます。
はじめに
2020年という年はCOVID-19パンデミックによって世界がいろいろ変わりましたが、 音楽業界において特に大きな変革のひとつが「オンラインライブの普及」だったと思います。 以前から試験的にやっているアーティストもいましたが、「ライブが開催できない」という死活問題に直面して この状況下でライヴを行う方法を本気で模索した結果「オンライン意外とできるじゃん」となって普及に至った、というのが現在の状況ですね。 で、オンラインライブが多数行われた中でオンラインの課題も見えてきたタイミングかと思います。 そこで、オンラインライブ元年と言ってもいい2020年を終えたこのタイミングにあえて「オンラインライブの価値とはなにか」を今一度考えることで、 オンラインライブが達成できていること、できていないことを整理し、今後の可能性について考える材料を提示したい。 それがこの記事の趣旨です。
オンラインライブの目的
まずオンラインライブを開催する目的はなにか? これはまぁ「この状況下でもライブを開催する手段を確保する」に尽きると思いますが、方向性として以下の2点があると思います。
- 現地ライブの代替
- オンラインだからこそ実現できる要素を盛り込み、「オンラインライブ」という新たなライブの形を提示する
僕はせっかく新しいパラダイムを導入するのだから、2まで踏み込んだほうが将来的にはプラスになるのではと考えています。 観る側の視点としても「現地に比べるとなにかが足りない……」と思ってしまうものよりも、「これは現地じゃ体験できないし面白い!」と思えるもののほうが楽しめるのは間違いないと思います。 オンラインライブは現地の劣化版みたいに捉えてる方も少なくない気がしますが、僕はそれは見せ方次第だと思っています。 オンラインならではの価値を適切に捉え設計すれば、「現地ライブとは違う、新しいライブの楽しみ方」が生まれるのではないかと考えています。
で、それを考えるためには「オンラインライブの価値」に加えて「そもそもライブの価値とはなにか?」を考察する必要があると思うんですね。 その辺を以下に書いていきます。
そもそも「ライブの価値」とはなにか?
これは人によって変わってくると思いますが、僕は以下の3点と捉えています。
- 音楽体験を共有する:演者は音楽を演奏し、聴衆は音楽を聴く (コンテンツそのものの共有)
- 同じ"場"を共有する (場=時間・空間)
- 演者と観客のインタラクション
「聴く」「共有する」「インタラクションを行う」の3要素、と考えると、現地ライヴではこの3要素が達成されている(と思われていた)わけですね。 この3要素が達成できるか、の観点で、オンラインライブでできていること・できていないことを整理してみたいと思います。
オンラインライブの強みと弱み
強み
- 演奏を高品質で配信する
- 演奏を"聴く"ことにおいては現地ライヴよりもアドバンテージがあるかも
- 「全ての観客が」「最も見やすい」視点で観られる
- 全員が最前で見られるようなもので、大きなメリット
- マルチアングルでの映像を見せられる
- たとえばベースソロでベーシストの手元をアップで映す、みたいなことが可能
- 観客が見たい視点を自由に選ぶ、ようなことも可能になりつつある
- 「見たい視点を自在に選べる」は一番大きな価値かもしれない
- バックステージ/メイキング/インタビューといったコンテンツを公演中に挟める
- 現地でもできなくはないが、配信ではより効果的に見せられる
- 気軽に参加できる
- 「ライブ興味あるけど1人で行くのはちょっと……」みたいなライト層はかなり多いと思われる
- そういう人にとっては「ちょっと観てみるか~~~」と軽率に観れるのはありがたい
弱み
- 演者と観客のインタラクションが希薄になる
- 現状はSNSやチャット機能程度に留まってしまうので、現地に比べるとインタラクティブ性はかなり下がってしまう
- VR/MR/ARデバイスが進化すればこれは越えられるかもしれない
- 一方で、声出しができない現在の状況では、現地ライヴでも満足なインタラクションはできないかも
- 同じ空間を共有することが難しい
- 現地ライヴの一番の強みかもしれない
- SAOみたいな感覚をハックするVRみたいなのができないと超えるのは難しいかも
- 生の音を体感する
- 空気を振動して直に伝わる音と、スピーカー/ヘッドフォンから聴く音には大きな違いがある
特に「インタラクティブ性」「空間の共有」が重視されるアーティスト (アイドル、声優、ロックバンド)では弱みが無視できないかもしれないですね。 逆に「音楽を聴く」ことがメインのアーティスト (アコースティック、クラシック、ジャズ)などはオンラインに向いていると言えるかもしれない。
オンラインライブにおける「映像の見せ方」と「没入感」
オンラインライブにおける重要な要素として「見せ方」と「没入感」が挙げられると思います。 それぞれについて、音楽体験の質を高めるにはどうすればいいか?を以下で考えていきます。
映像の見せ方
昨年そこそこの数のオンラインライブを観ましたが、イマイチ高まりきれないなぁ……というライブにはある共通点があることに気づきました。 それは「その場に欠けているものがあると感じてしまう見せ方」です。 タイトルに「無観客ライブ」とつけてしまったり、現地のステージをそのまま再現した結果「空の客席」を映してしまったり…など。 こういうことをしてしまうと、「ライブとしてこの場には欠けているものがある」と感じてしまって、 「やっぱオンラインは何かが足りない……」という感覚になってしまうと思います。
これに対するひとつの答えは、「現地ライブとはそもそも違う見せ方にして、 "必要なものはすべて揃っている" "欠けているもののない場" を構築する」ことが必要ではないかと思うわけです。 たとえば、
- スタジオセッションを神の視点で覗いているかのような見せ方にする
- 円形のステージで円陣のようなスタイルで演奏する: 現地だと実現できないアングルなので(観客に背を向けることになる)、意外と特別感あります
などが考えられるかなと。
あとは配信の構成として、「インタラクティブ性のある音楽番組」みたいな構成にするのもひとつのアプローチかもしれないですね。 たとえば「演奏の合間にメイキングやバックステージ、インタビューを挿入する」など。 TVの音楽番組的な見せ方は観る側に飽きさせない構成として有効だと思うし、アーティスト・楽曲に対して理解が深まるという意味でも有効だと思います。 ただ、これだけだとTV番組と何が違うの?となると思うので、インターネット・SNS時代だからこその「双方向のインタラクション」も重要になってくるのかなと。 fhánaのオンラインライブでやっていたことですが、「次にやる曲をTwitter投票で決める」というのをやっていて シンプルながら観客側がライブにインタラクトできる手法として有効だなーと思いました。 clusterみたいなVRベースのコミュニケーションツールを使うと、演者と観客間でのもっとインタラクティブな関わり合い方ができるかもしれないですね。
没入感
現地ライブの没入感って凄いですよね。 ライブの最中はもちろん、会場に向かうまでの道中も普段とは違う景色に思えて、その1日が特別な "非日常" の1日になる感覚があります。 対して、オンラインライブでそこまでの "没入感" "特別感" を得ることは(現時点では)非常に難しいです。 オンラインライブは基本自宅で観る以上、どうしても "日常" に溶け込んでしまって、没入感がどうしても弱くなります。 なぜ没入感が弱くなるのか?と考えてみると、
-
- 集中を阻害される要因がたくさんある
-
- 体験の解像度が低くなる
が大きいと思うんですね。 1については、
- ながら見ができてしまう
- メリットでもあるが、ライブに没入したい場合はデメリット
- 他のものが視界に入ってライブに100%集中できない
- スマホの通知とかSNS画面とか家のインテリアとか
- 通信障害、音飛び
- 現地ではほぼありえない現象で、個人的に集中力を阻害される一番の敵です
2については、
- ライブに入り込めるかが視聴環境(デバイスの画面サイズ&音質)に大きく依存する
- "身体で音を直接体感する" 感覚は得られない
- ライブハウスに行ったことのある人はわかると思いますが、スピーカー/ヘッドフォンを介して聴く音と生の音はまったく違います(特にunpluggedのアコースティックサウンド)
ではオンラインライブにおいて「没入感」を高めるにはどうすればいいか? 現状では観る側が工夫するしかない、というのが正直なところですが、僕がやっていることを挙げてみます。
- ライブ画面に集中できるような環境を作る
- 部屋の電気を消す、目立つインテリアなどを隠す、など
- 画面サイズの大きいTV、音質の良いヘッドフォン・スピーカーを使う
- オンラインライブに最適化されたHMDがあれば欲しい
- 非日常感を出すために、特別なことをしてみる
- 贅沢な夕飯にする、お高いお酒を飲む、ライブTシャツを着る、など
現状では観る側が工夫するしかありませんが、できれば技術で解決したいところですね。 特にライブに集中できるようにする、はVRで解決できそうですし。
まとめ
自分の中でも結論が出ている話ではないので結論的なものはありませんが、
- 「現地ライヴとは違うもうひとつのライヴ鑑賞形態、もう一つの武器」として確立して欲しい
- オンラインライヴが向いているコンテンツについてはどんどん活用してほしい
- もちろん現地でしか達成できない価値もあるので、両者併用しながらこの難局を乗り切って欲しい
というところですかね。 特に没入感については技術で解決できることもありそうな気がするので、僕も引き続き思索を深めてみたいと思います。
特に良かったオンラインライブ2020
- fhána Sound of Scene ONLINE "Ethos"
- Kusunoki Tomori Birthday Candle Live『MELTWIST』
- 東山奈央「Special Thanks!フェスティバル」(現地&オンライン併用)
- 澤野弘之 LIVE “BEST OF VOCAL WORKS [nZk]” Side SawanoHiroyuki[nZk]